【保育園【管理栄養士が解説】手づかみ食べが進まない理由|「食べない」の前に知っておきたい固有覚と発達
― 手づかみ食べが進まないときに見るべき“感覚(固有覚)の視点” ―
「手づかみ食べをなかなかしないんです」
「掴むけど、口に入れない」
「こねくり回して終わる」
「投げる、叩きつける……」
こんな相談を、保育者や栄養士、支援者が受ける場面は少なくありません。
また、給食で手づかみ食べのメニューを出しても
「なぜ食べないんだろう?」と戸惑う現場の声もよく聞きます。
そうしたとき、
“どうすれば食べてくれるか”というメニューの工夫に意識が向きがちですが、
実は見ておきたい視点があります。
それが、身体の感覚、とくに「固有覚」です。
固有覚(proprioception)とは? 科学的な定義と役割
固有覚は、筋肉や関節が「今どんな状態にあるか」を脳へ伝える感覚機能です。
感覚統合では、五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)に加え、
● 前庭覚(バランス・頭の傾き・加速度)
● 固有覚(関節・筋肉の状態)
を含めて扱います。
この固有覚が働くことで、
✅関節の角度の調整(どのくらい力が入っているか)
✅力の入れ具合の調整(どこまで腕が上がっているか)
✅手と口の位置関係の認識(手が口にどれくらい近づいているか)
こうした情報を、無意識に教えてくれています。
この感覚が育っているからこそ、
私たちはコップを割らずに持ち、
食べ物を口に運ぶことができます。
ができるようになります。
手づかみ食べは「指先」だけの話じゃない
手づかみ食べというと、
指先の発達や巧緻性をイメージしがちです。

けれど実際には、
・姿勢を保つ
・腕を動かす
・力を調整する
・手と口の距離をつかむ
こうした全身の感覚と動きが同時に使われています。
その土台に関わるのが、固有覚です。
固有覚がまだ育ち途中だと、どうなる?
固有覚が整理されていない時期には、
✅そっと口に運べず、勢いよく振り上げてしまう
✅口に入る前に手から離してしまう
✅手と口の位置関係がうまくつかめない
✅「食べる」より「動かす」感覚が楽しくなる
こんな姿が見られることがあります。
これは失敗ではなく、身体の感覚を集めている最中の行動です。

環境・遊びの中で育つ感覚:保育でできる工夫例
食事の場面だけで、なんとかしようとしなくていい
「手づかみ食べをしない」と聞くと、食事の工夫でどうにかしようとしがちですが、実は、遊びの中での身体の使い方が大きく影響します。
以下のような身体遊びが、固有覚を豊かにする体験につながる可能性があります
① ダイナミックな動きの経験(足上げ・四つ這い)
ハイハイや足を上げることで体幹や関節への入力が増え、
身体の位置や力加減の意識が育ちます。
指先の前に、まず大きな動き。
体幹や関節を動かす経験が、土台になります。
足舐め遊びもとってもgood🌟
② 自分の軸を知る遊び(おくるみ・ハンモック遊び)
赤ちゃんが自分の身体をうまく使うためには、
「どこからどこまでが自分の身体か」
「今、自分の身体がどんな形になっているか」
を感じ取ることが大切です。
その感覚を育てる遊びの一つが、おくるみに包まれる経験や、ハンモック遊びです。
「包まれることで、身体の輪郭を知る」
おくるみに包まれると、
腕・脚・体幹に均等な圧がかかります。
この圧が、「ここが腕」「ここが胴」「ここが足」
といった身体の輪郭を、固有覚として脳に伝えてくれます。
自分の身体の“境界”がわかることで、
軸を中心に動かす感覚が育っていきます。

「揺れの中で、軸を感じる」
ハンモック遊びでは、
前後・左右・斜めと、
さまざまな方向の揺れを体験します。
揺れの中で、
身体は無意識にバランスを取ろうとし、
「今、身体はどちらに傾いているか」
「どう動けば安定するか」を感じ取ります。
これは、固有覚と前庭覚が同時に働く体験です。
「自分の身体を感じられる」ことが、動きにつながる
自分の軸や輪郭を感じられるようになると、
手足を動かすときにも、
無理のない力加減や方向が選びやすくなります。
結果として、
- 掴んだものを落としにくくなる
- 手と口の距離がつかみやすくなる
- 動きが大きすぎず、小さすぎず調整できる
といった変化につながっていきます。
③いろいろな上でハイハイ
芝生、プチプチ、クッションの上。
床が変わるだけで、身体への情報はぐっと増えます。
④トンカチあそび
──微細運動の前に、まず粗大運動
肩から振り下ろし、狙って叩く。
トンカチあそびは、腕や体幹を使いながら、力加減や動きの大きさを調整する遊びです。
手づかみ食べの練習として、ぽっとん遊びがよく取り入れられますが、
指先の動きは、身体の安定があってこそ活きてきます。
体の軸が不安定なまま微細な動きを求めると、
力が入りすぎたり、うまくコントロールできなかったりすることもあります。
トンカチあそびのように、
肩から腕を大きく動かす経験は、
手と目、身体を連動させる土台づくり。
粗大運動が育つことで、
「掴んで、口に運ぶ」動きも、少しずつ安定していきます。
まとめ:「手づかみ食べしない」ではなく、「準備している途中」
食べない=できていない、ではない
手づかみ食べが進まない姿は、
その子なりに身体の準備をしている途中かもしれません。
食べることは、口だけの発達ではなく、
身体全体の感覚がそろってはじめて成立します。
手づかみ食べが進まない子どもを前にすると、
つい「食べさせ方」「メニューの工夫」に意識が向きますが
まず見るべきは“身体がどんな感覚入力を受け取り、統合しているか”という視点です。
だからこそ、
食事の場面だけを切り取らず、
その子の身体の感覚の育ちを
丸ごと見ていく視点が、支援には欠かせません。
「どうすれば食べてくれるか」ではなく、
「今、この子の身体はどんな感覚を集めている最中なんだろう」
そんな問いから始まる支援が、
手づかみ食べの“その先”につながっていきます。

手づかみ食べが進まない背景には、
食材や進め方以前に、
その子の身体や感覚の育ちが関係していることもあります。
保育食支援士の離乳食講座では、
「◯か月だからこの形態」といった月齢ベースではなく、
その子が今、どんな感覚を育てているのか
どこにつまずきやすいのか
という視点から、離乳食や食事の進め方を考えていきます。
0歳児クラスの保育士さん、
乳児クラスのみの小規模園で働く管理栄養士さんなど、
「毎日同じ月齢の子と向き合っている」支援者の受講も多い講座です。
「食べない理由を、感覚や発達の視点から整理したい」
「正解探しではなく、寄り添い方を学びたい」
そんな方は、
保育食支援士の学びも、一つの選択肢として知ってもらえたらと思います。
▶ 受講生の声・講座の詳細はこちら
https://kodomohoiku.org/610p/
参考文献
1.感覚統合理論・固有覚の定義
Ayres, A. J.(1972)
Sensory Integration and Learning Disorders
Los Angeles: Western Psychological Services.
"Proprioception provides information about joint position, muscle force, and movement, and plays a key role in postural control and coordinated action.”
【翻訳】
固有覚は、関節の位置や筋肉の力、運動の状態に関する情報を提供し、姿勢制御や協調的な動きに重要な役割を果たす。
2.感覚処理特性と運動能力の関連
佐藤真紀・他(2017)幼児における感覚処理特性と運動能力の関連
『日本保健科学学会誌』22巻4号, 183–190.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhsaiih/22/4/22_183/_pdf
▶固有覚に関連する感覚処理特性と、体幹の柔軟性やバランス能力との間に相関が認められた。
3.乳児期の手・口・視覚の協調運動
大久保純一・他(2015)乳児期における目・手・口の協調運動の発達過程
『発達心理学研究』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/5/1/5_32/_article/-char/ja/
▶乳児期には、手・口・視覚の協調運動が段階的に発達することが観察された。
この記事を書いた人
執筆:三井 眞理子(みつい まりこ)
一般社団法人こども保育支援協会 代表理事/管理栄養士
保育食支援士を立ち上げ、現場に寄り添う知識を発信。保育園・行政・医療機関での栄養支援経験をもとに、「食を通して子どもの発達を支える」専門家育成に取り組む。
保育士・栄養士・看護師向けの研修や講座を多数実施。
その他のコラム記事
- 離乳食2回食=中期は間違い?回数と形態の進め方を専門家が解説
- 保護中: 離乳食、丸のみしてしまう子へ ― まず“かじり取り”を育てる理由と支援ステップ
- 「軟飯はいつから?」にもう迷わない|プロが教える“発達で見る離乳食”
- 保育園管理栄養士がおススメする 離乳食・幼児食「食べない・進まない時の声掛けのワザ」
- 離乳食中の「水分補給」に注意を――“だ液を出す”“噛む”発達を支えるために
- 横浜助産師会「産後ファミリーヘルパー養成講座」で食育の研修を実施しました






